ビロードモウズイカ(マレイン)
「これは何ですか?」と、多くの方に訊かれる植物があります。「初めて見た」という方や、「線路脇で見たことがある」と仰います。
和名を「ビロードモウズイカ」Verbascum
thapsusといいます。ヨーロッパ,北アメリカ、アジアの広範に分布する植物です。明治時代に鑑賞用として「ニワタバコ」という名前で北アメリカから導入されたそうですが、現在では全国各地に溢出し、草原、道路脇、線路脇、牧草地などの多様な環境に分布域を拡げていて、野生化していたりします。園芸では、「バーバスカム」と呼ばれ、存在感ある姿が人気らしくピンクや紫色の品種も流通しています。
昨年は園の奥まった場所、カジイチゴの傍に大株が1本ありました。今年は、数個の個体が離れた場所で、ロゼット状で育っています。発芽した年は根元の葉だけで過ごします。名前どうり全株は綿毛が密生しています。漢字では「天鵞絨毛蕊花」と書きますが、天鵞絨(天鵞絨)のようで、雄蕊(おしべ)に毛が生えていることが名前の由来です。
種子は、親株の近く1m以内に散布されますが、大方は5m内に落ちると云われています。種子は10年以上、長いときは100年間も発芽能力を保つことが出来るそうです。一つの果実には700個程の種子を含有するので一株でその数は数万個になります。それらが発芽能力を秘めた埋土種子として土壌中に保存されます。
今までは無かったのにある年、突然現れる植物があるのは、この埋土種子に依るのです。発芽能力を保った種子が多いことを土壌シードバンクといいます。
園の土壌は、まさしくシードバンクになっているのです。
発芽した年は、ロゼット状で冬を越します。“ロゼット状”とは、地面に葉が拡がって立ち上がっていない状態をいいますが、越冬するのに最もエネルギーを消耗しないで済みます。
翌年、温かくなると花茎が伸びて葉が花茎を螺旋状に取り巻きます。茎が伸びるにつれて上方の葉は小さくなりますが、下方の葉は大きく長さは40cm、幅は15cmほどにもなります。草丈は2mにもなる大型の越年草です。
花期は7~8月、茎の頂に黄色い花を総状花序に密生します。花は一日花で、早朝開き午後にはしぼみます。受粉は訪れる昆虫、ハナアブやハナバチの仲間だけが有効な花粉媒介舎となります。日中、昆虫よって受粉されないと自花受粉します。
ビロードモウズイカは古代から皮膚や喉や呼吸器の病気などの治療に使われていました。それは、ある種の粘液、幾種類かのサポニン、クマリン、配糖体などを含むため、特に収斂作用や皮膚軟化剤として利用されていたのです。古代ギリシャの医者であり「薬理学と薬草の父」云われるペダニウス・ディオスコリデスは、2000年も前から呼吸器の病気に,この植物を推奨していたのです。今日では、ドイツでは小児の呼吸器系疾患に処方されています。ナチュラロパシー医、メディカルハーバリストは、慢性の中耳炎に処方しています。(注:ナチュラロパシーとは、身体には本来、健康を維持したり、病気を治したりする力が備わっており、治療家の役目は、この力を、自然な食事や害の無い治療法でうまく引き出したり、治癒を阻害しているものを取り除いてやることにあるとするやり方です)
ハーブでは、マレイン又はマーレインと呼ばれます。原産地北米の先住民族は、葉をタバコのようにして吸引し,喘息や痙攣性の咳の治療に用いていました。メディカルハーブでは、花からはオイルに浸して冷浸法で作ったインヒューズドオイルを耳痛、傷、自などの炎症に塗布薬として用い、お茶を入れる要領で作る浸剤は咳、喘息、気管支炎、去痰などの呼吸器系に有効とされています。葉は、潰して皮膚病や炎症に湿布したり、果物を包んで保存するのに利用したりします。
日本では余り知られていないハーブですが、栽培も容易ですから、もっと利用されても良いハーブだと思います。
余談ですが、右の写真は、以前、「エサシソウ」といい、山野草の仲間から貰ったものです。北海道、江差の浜で、発見されたのが、名の由来と聞いていました。
10年ほど経った時、「シロバナモウズイカ」Verbascum blattaria L. f. erubescens Brüggerというのが正しい名前だと知り、驚きました。学名をみて、ビロードモウズイカの近縁種と得心しました。
モウズイカ属の多くは,黄色ですが,オレンジ、赤茶、紫、青色もあるそうですが、未だ見たことはありません。どんどん新しい植物が出てくる園芸業界ですから、近い将来、多色のエサシソウにお目にかかれるかもしれません。
学 名:Verbascum thapsus
科 名:ゴマノハグサ科
別 名:マレイン、マーレイン、バーバスカム、タバコグサ、キャンドルウィック。
利用部位:葉、花
利用法:●花⇒必要時に採取します。浸剤や冷浸法でインフョーズドオイルに。
(インフューズドオイルとは、ハーブの有効成分をアーモンド居る,小麦胚芽オイル、ヒ
マワリオイルなどの植物油二浸して抽出するやり方)
●葉⇒必要時に採取します。潰して湿布します。
効 能:●花⇒・チンキ剤-・・・喉の園種に、一日量30mlまで。
(生のハーブ、または乾燥ハーブをアルコールに漬けて、濾した液をチンキといいま
す。チンキ剤はお茶に数滴入れて飲んだり、うがい薬としたり、湿布や化粧水にも使
います)
・浸剤・・・花25gを沸騰した水又は牛乳1㍑に入れ、使用前に漉し
て、一日量3杯までを、飲用します。
・ティー・・・呼吸器系疾患に。咳、気管支炎、去痰、喘息、不眠症。
●葉⇒・潰して・・・皮膚病や炎症に湿布。
・新鮮な生葉で果物を包んで保存に。
成 分:粘液物質、サポニン、フラボノイド、苦味配糖体。