チョロギ
自宅の植栽には,小さな名札ですが“名前と効用”を付けています。植物に興味のある方は、その札を読んで 「こんな草に、この名前があって、このような働きがあるとは知らなかった!!」 と驚きの声をかけて下さいます。そうやって人の輪が拡がって、草友が沢山出来てきました。
先月中頃から、チョロギが咲いていますが、名前はもとよりチョロギを知っている方は皆無なのです。これを読んでくださっている方は如何でしょうか。
チョロギとは“おせち料理の黒豆に入っている赤い変なもの”といえば、ああ、アレかと思い当たられるでしょう。あの変なのは実はチョロギという植物の塊茎(かいけい)なのです。塊茎とは地下茎の一部が養分を蓄えて肥大したものなのです。
植物は知っていても、実は、私は口にしたことはないのです。植え付けの時は、塊茎一つだって勿体なくて食べてみようとは思いもしませんからね。そこで今回、チョロギの梅酢漬けと味噌漬けを取り寄せてみました。
地下茎の先端に白色で巻貝状の塊茎をつけています。皮の剥けた白いのはまるで貝パールのようです。商品となっている漬け物は、口当たりはいいのですが私には甘すぎました。おつまみ研究所の[国産チョロギ、梅風味・個包装]の方が口に合いました。そう、知らずして語れませんから、食べ比べてみたわけです(^_^;)
百聞は一見に如かずです。ご覧下さい↓
このチョロギの塊茎も、カラスウリの花も、神様は大芸術家なのか、それともいたずら好きなのかしらと思うのです。
秋にぶら下がるあの朱い実からは、とても想像できないですよねぇ。
←カラスウリの花をご存じない方のために。
チョロギの語源は、朝鮮語でミミズのことを「チョロイン」という・・・其れが語源説であるというのが有力のようですが、ハッキリはしていません。
日本最古の農業書『農業全書』は、安芸の国生まれの宮崎 安貞が、貝原 益軒の本草学に影響を受けて農業技術の発展を図って著した本で、1697年(元禄10年)に公刊されました。其処ではチョロギを“甘露子(かんろし)”としてあります。「甘露子、草石蚕(そうせきさん)とも地瓜児(ちへいじ)とも云 今俗に てつろぎ と云物なり」とあります。続いて「料理いろいろあり珍しき物なり 殊に多く作りては飢えをも助くものなり」とあり、救荒植物でもあったと思われます。
同じ頃日本の食物全般に品名を揚げて、その性質や脳毒、地味、食法などを詳しく著された『本朝食鑑-1』には、「知也宇呂岐」と書いて(ちやうろぎ)とふってあります。そして「つまり草石蚕のこと。一名は甘露子という。古来我が国にあったという事を未だ聞かない。近世になって華船が種を移し、この頃は家々で栽培している」とあります。
チョロギは中国伝来の植物で、救荒植物、食用に栽培していたのですが、他の利用法としては、生の塊茎を細かく砕いて、打撲の患部に貼り付けていたようです。
花壇に植えられる花のような派手さはありませんが、可愛い花が咲きますから、食用にもなるチョロギ、一度栽培してみてください。春先には、ホームセンターでも苗の販売もされていますよ。
近縁種には、 ヨーロッパからアジアが原産地の多年草カッコウチョロギがあります。ハーブではウッドベトニ- Stachys officinalis と呼ばれます。カッコウチョロギはチョロギより2,30年遅い享保年間に渡来しました。小石川養生所の開設も有り、植物も沢山導入されたんだろうと推察します。同じシソ科で、花も茎もシソ科特有の四角で、大変よく似ています。しかし根は、チョロギのように塊茎にはならず、細毛ですから、区別出来ます。 カッコウチョロギ ↓
●チョロギ●
学 名:Stachys siebolidii
科 名:シソ科
別 名:チョロウギ、チョロキチ、ショウロキ。ヒダリネジ、ホライモ
利用部位:塊茎⇒ 夏から秋に塊茎部分を採取し、水洗いして生のまま用います。
効 用:・打撲に⇒生の塊茎を細かく砕いて、暗部に貼ります。
・食用に⇒梅酢漬け。味噌漬けなどに。炒めても煮ても使えそうです。
成 分:塊茎には糖質のスタキオースが多く含まれていて、体内でブドウ糖に
分解します。たんぱく質を2.5%も含みます。
■カッコウチョロギ ■
学 名:Stachys officinalis
科 名: シソ科
利用部位 :地上部⇒夏の開花期に地上部を刈り取り
利 用 法 :・浸剤(カップ1に茶匙1杯)⇒月経痛、片頭痛、神経の緊張に。
歯肉炎、口腔潰瘍、のどの痛みにうがい薬として。
お産の痛みには熱い浸剤を服用。
・チンキ剤⇒特に神経性の頭痛に。関節炎の症状にも。
・ハップ剤⇒生の葉をつぶして傷や打撲傷に。
効 能: 鎮静、神経鎮静、穏やかな利尿作用、苦味健胃、
脳循環の強壮作用、収斂作用
成 分 アルカロイド⇒スタキドリン、トリゴネリン、タンニン、サポニン
注意)子宮を刺激するので、妊娠中は使用しないこと。