お屠蘇ってなぁに
今年も数日を残すばかりになりました。元日の朝、家族揃って、屠蘇酒を飲み一年間の邪気を払い健康長寿を祈願する習わしがありますが、皆様のお宅ではどうされていますか? 昔は暮れには近所の酒屋さんから「屠蘇散」を貰ったものです。「屠蘇散」には数種類の生薬が調合してあります。其れを清酒か本味醂に一晩浸け込んで飲む薬用酒が“お屠蘇”です。
近所のドラッグストアーに「屠蘇散」を買いに行ったら、「それはありませんが、“お屠蘇"ならありますよ」と云われ???
製品になっているお屠蘇は見たことが無いので、「一応見せてほしい」と売り場へ案内して貰うと、「屠蘇散」と清酒が並べてあるではありませんか。
「これが屠蘇散。これを清酒か味醂に一晩浸けるとお屠蘇になるのよ」と話したら、「あら、お正月に飲む清酒のことをお屠蘇って云うんじゃぁないのですか!!」と驚いていました。
偶々かもしれませんが、屠蘇散を販売している人ですら、お屠蘇についてハッキリ分かっていないのには、こちらも仰天でした。年始にお酒を飲んでうきうきした気分になることをお屠蘇気分・・・という表現をするので、それを“お屠蘇"だと思い込んでいるのでしょうか。
「屠蘇散」は、清酒や本味醂に一晩漬け込んで用いますが、生薬を数種調合して作ってあります。その調合は、2世紀頃の古代中国の名医 ・華陀(かだ)が伝染病の予防目的で考案したとされています。医学が発達していない時代ですから、重宝されていたことでしょう。当時の処方には作用の強いダイオウ・大黄(だいおう)、トリカブト・烏頭(うず)、サルトリイバラ・抜契(ばっかつ)も入っていたそうですが、現在作用の強いそれらに代わってウンシュウミカンの皮・陳皮(ちんぴ)が使われています。お屠蘇を飲む習慣が始まったのは、平安時代前期に宮中で始まり、江戸時代になって庶民にも広まったとされています。
屠蘇散には、次のような生薬が調合されています。
植物名⇒オケラ
科 名⇒キク科
生薬名⇒白朮(びゃくじゅつ)
利用部位⇒根
薬 効⇒健胃作用、利尿作用
植物名⇒サンショウ
科 名⇒ミカン科
生薬名⇒山椒(さんしょう)
利用部位⇒乾燥果実
薬 効⇒消化不良、健胃作用、殺菌作用
植物名⇒セイロンニッケイ
科 名⇒クスノキ科
生薬名⇒肉桂(にっけい)
利用部位⇒樹皮
薬 効⇒発汗・解熱作用、抗菌・抗真菌作用
植物名⇒キキョウ
科 名⇒キキョウ科
生薬名⇒桔梗根(ききょうこん)
利用部位⇒根
薬効⇒鎮咳作用、去痰作用
植物名 ハマボウフウ
科 名⇒セリ科
生薬⇒浜防風(ハマボウフウ)
利用部位⇒根、根茎
薬 効⇒風邪、関節炎、抗炎症作用
植物名⇒ウンシュウミカン
科 名⇒ミカン科
生薬名⇒陳皮(ちんぴ)
利用部位⇒完熟ミカンの乾燥外皮
薬 効⇒食欲増進、消化促進、初期の風に
チョウジノキ(クローブのこと)
科名⇒フトモ科
生薬名⇒丁子(ちょうじ)
利用部位⇒開花直前の蕾を乾燥させたもの
薬 効⇒方向性健胃、防腐
お屠蘇の「屠」は邪気を払い、「蘇」は心身をよみがえらせるという意味に由来するそうです。季節柄、軀を温め、風邪の予防にや、飲み過ぎ、食べ過ぎで弱った胃腸の働きを助けたりするのに有効な生薬を組み合わせてあるのです。
ついつい食べ過ぎたり飲み過ぎがちな三が日に、数種類の生薬が入った薬用酒を飲むのは理に適った習わしなのでしょう。
中国の千金方(せんきんぽう)という漢方古書には「一人がのめば一家に疫なく、一家が飲めば一里に疫なし」と記載されているそうです。
お屠蘇は薬くさいから・・・と、今まで手を出さなかった方も、お正月には是非お試しになってみて下さい。